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How To 護身術

- How To Goshinjutsu -

護身術とは

民間・軍・警察 3つのクラヴマガ

2024.03.07

ジュリアン リトルトン
南アフリカ生まれ。19歳よりイスラエル国防軍(Israeli Defense Forces)に従事。国境警備、空港警備、人質救護など、数々の危険度の高いミッションに携わってきたセキュリティーのスペシャリストで、クラヴマガをもっともよく知り、経験した日本在住者と言って過言ではない。日本のみならず海外の政府VIP警護チームへの訓練も行うなど、指導経験も大変豊富。
 
2018年よりマガジムでクラス指導を開始。日本の社会や国民性をよく知る者として、クラヴマガを日本でどう応用すればより実用的かを常に考え、クラスのカリキュラム開発や、インストラクターの教育・訓練を担当している。

ジュリアンが解説 クラヴマガの世界シリーズ 第2弾は「民間・軍・警察 3つのクラヴマガ」がテーマです。それらの違いを知ることでクラヴマガをより深くご理解頂けると思います。

3つのクラヴマガ

前回の「クラヴマガの誕生は必然だった」では、クラヴマガは迫害に直面したユダヤ人の生き残り策として誕生し、次にそれが軍のシステムとなり、退役した軍人が独自のジムを作ることで民間に戻り、さらなる進化を遂げてきたとことをお伝えしました。
 

その後クラヴマガは世界で、民間、軍、そして警察をはじめとする法執行機関に取り入れられ、今日も活用されています。しかし一口にクラヴマガといってもそれぞれのセクターには固有の事情があり、相違点があるのも事実です。
 
本日はクラヴマガの特徴を皆さんに正しく理解頂くことを目的に、民間向け、軍向け、警察向けの3つのクラヴマガの特徴をお話します。

民間向けのクラヴマガ

民間人にとってのクラヴマガは、言うまでもなく身を守る手段です。危険な社会の中でいかに生き残るか、危ない目に遭わずに助かるかが目的です。
 

さらには、いかにして危険に近づかず関わらないか、危険を避けるためには、日ごろからどう行動すべきか、といった危険を「未然に回避する意識と行動」は、民間人には最も重要です。



そして万が一危険との遭遇を避けられなかった場合、被害を最小限にしてその場から極力早く立ち去ることが、民間人にとってのクラヴマガのコンセプトです。相手を拘束する必要もなければ、勝つ必要もありません。いかにして自分が助かるか。生き残るかだけです。
 

そして民間人が実戦で使える能力を身につけるには、相応の時間がかかると思ってください。速習可能なのがクラヴマガの特徴ですが、民間人にとっては伝統的な武道や格闘技同様、実際には時間がかかるものです。ここは後ほど詳述します。
 

軍のクラヴマガ

一方で、軍は事情が異なります。軍では短期間が求められます。軍人の任務にとって必要なことだけを、極力早く習得させる。すべてを学ぶ必要はありません。部隊や任務によって必要とされる役割が異なるわけですから、それに必要なことだけができればいいのです。



部隊や配属によっては1週間の訓練で十分なところもあれば、1ヵ月の部隊、またはより深く広く全キャリアを通じて訓練を要する部隊もあります。近接格闘術の必要度合いによって、訓練期間は変わります。
 

特性を見極めるツール

軍でのクラヴマガのもう一つの側面をお話しします。クラヴマガは兵士のストレス適性を試すツールです。 兵士が高いストレス下の逆境に置かれた時、それをどう解決しようとするかをテストするための手段として、クラヴマガは優れています。安全な施設内でテストを行うため、兵士の命にかかわることはありません。兵士に実弾の入った銃口を向けたり発砲するわけではありませんから。それらを通じて兵士はストレスやプレッシャーへの対処方法を学びます。



Neve Give Upの精神力がこの兵士にはあるかどうか。「Fight or Flight (闘争か逃走か)」の状況下で、諦めずに戦い続けるか。自分が壊れてでも、限界を超えて己を追込むかどうか。部隊の選考試験などでは、兵士が限界を超えられなければ、大抵は落ちます。目の前の壁を壊したり、境界を超えることができなければ、それが求められる部隊では不要です。



クラヴマガの訓練で壊れる兵士は、実戦でも同様です。部隊の指揮官にとってクラヴマガは、どの隊員に適性があり、誰が無いかを短期間で判断するための最適なツールです。口で言うのは簡単ですので、面接だけで適性を測るのは困難です。しかしクラヴマガの訓練に放り込めば、ファイティングスピリットがあり本当に危機を克服できるのか、それとも口だけなのかは一発でわかります。

 

技術に完璧は求めない

軍では基本技術の習得には重きをおくものの、練度や習得技術の数はあまり重要視しません。プロキックボクサーのような美しい打撃技や、柔術家の完璧な寝技テクニックは求めません。極限状態でも戦い続ける能力があるのかどうかが最も問われ、その見極めにクラヴマガは活用されています。

軍特有のアグレッシブさ

そしてもう一つ、軍におけるクラヴマガの特徴は攻撃性が強いことです。攻撃されるのを待ち、それに反応するというよりも、相手をまず攻撃し、撃退する。クラヴマガの攻撃力を自らの武器として使います。パンチをされるまで待つのでなく、先にパンチを放つ。



何故なら、軍の目的は相手を破壊することだからです(部隊の任務や性質により異なりますが)。従って軍のクラヴマガは攻撃的です。

警察のクラヴマガ

次は警察などの法執行機関(以下、総称して警察と記載します)、すなわち法のもと治安維持にあたる人たちのクラヴマガです。
 

警察が使うクラヴマガは、民間と軍のちょうど中間です。警察は法に従わなければいけません。容疑者とは言え、やたらめったら攻撃を加えるわけにはいきません。自分の身の安全を考えつつ、相手の身の安全を同時に考慮しなければならない。



軍はどうでしょう。極力早く相手にダメージを与えるのを優先するので、敵の安全は考えません。一般人は?自分が助かる為であれば、相手の身の安全まで考えてはいられません。真っ先に逃げることを優先します。

最小限の武力行使

ではあらためて警察は?自分の安全と容疑者の安全が両立するよう、その微妙な一線の上をうまくやりくりしないといけません。暴行や抵抗を止め、最小限の力で相手の命を奪うことなく無力化し、逮捕しないといけません。
 
どうすればそれができるのか。相手の力より「わずかに」強い力で無力化を図ることです。相手よりも弱ければむしろやられてしまいます。かといって強すぎてもダメ。



ここが警察におけるクラヴマガの一番難しい所です。適切な武力の行使はどの程度なのかを理解するには時間と経験が必要です。そのために多くのシナリオトレーニング(実戦をシミュレーションした訓練のこと)やドリルを通じて、状況に応じてどの程度の力を加えるのが適切なのかを学びます。

制圧や拘束、銃器使用への移行

さらに警察は、犯人を制圧し、拘束する必要があるためそのテクニックを重視します。また警察官は銃器で武装をしますから、状況に応じて素手から銃器へスムーズに移行します。また自分の銃器を奪われない技術も必要です。これも警察特有の技術です。



これらの条件を満たす必要がある警察にとってのクラヴマガは、かなり事情が複雑で難易度も高く、多くの経験が必要です。
 
以上、民間、軍、警察と3つのセクターのクラヴマガについて触れてきましたが、それぞれに特有の事情と特徴があり、アプローチも違えば訓練に要する期間(=実戦で使えるまでに要する期間)も異なります。これからは、その期間の違いについて、詳しく説明します。
 

クラヴマガは速習可能か?

よくあるクラヴマガのジムは宣伝文句で「入会から3ヵ月で実戦的な護身術が身につきます」といったことを言いますが、これは主に、軍隊出身のジムオーナーにより作られた誤解です。「最短期間であなたは強くなれます」「理想の技術がすぐ身につきます」の宣伝文句は果たして本当でしょうか。

宣伝文句とよくある誤解

軍では、短期間で集中的に徹底して訓練するからそれが可能です。1日1~2時間どころか、一日中訓練にあてることもあります。軍人に対して与えるストレスや緊張感はとても大きく、民間人とは異なります。軍人にできるのだから、一般人にもできると解釈するのは軽率です。



そもそも訓練環境が大きく異なります。一般人にとっての教官であるジムのインストラクターは、生徒の生活までコントロールすることはできません。生徒が一旦ジムから帰宅してしまえば、食事や就寝、その他時間の過ごし方などには力は及びません。
 
一方で軍隊だとどうか。24時間すべてに教官の影響が及びます。1日4時間でも5時間でもクラヴマガの訓練に時間を費やせます。それを1週間、2週間と連続で行うこともできます。基礎体力づくりにどのくらい、睡眠はどのくらい、身体的にも肉体的にもストレスレベルはどのくらい与えれるか、など、24時間体制で軍人をモニタリングでき、一般人とは密度が圧倒的に違います。
 
そのように管理され、デザインされた訓練プログラムなので、軍人は短期で集中的に実戦で使える力をつけることができるのです。
 

現実的な上達プロセス

ですので私はよく一般の方には、軍隊のように短期間で身につけれるとは思わないでくださいと伝えます。伝統的な武道や格闘技の習得に時間を要するのと同じように考えるのが現実的です。皆さんそれぞれに生活があるわけですから、訓練だけに集中することは難しいでしょう。



もちろん、クラヴマガは短期間で習得できるようにシンプルに設計されてるので、基本的な技術はすぐ身につきやすいです。しかしそれを実生活で活用する能力は、どれだけ練習を繰り返したか、または実戦的なドリルを重ねてきたかに依存します。
 
3ヵ月で護身術が身につきますという言葉が独り歩きすると、それを期待してクラヴマガを始めた人が、現実との違いに失望しかねません。「あなたのいう通り週2~3回、3ヵ月に渡って練習してきたのに、約束と違うじゃないですか!」と。そのうちもっと積み重ねが必要なことに気づき、最初の想定と違うと感じてすぐに辞めてしまう方が、なんと多くもったいないことか。クラヴマガは魔法のような即効薬ではありません。
 
もちろん3ヵ月練習し続ければ、始める前とは大きな変化が生まれますが、理想の姿にはなれません。さらに半年、1年、2年と諦めずに練習を続けてみてください。変化が重なり、確実に上達します。そこに時間がかかってもいいのです。人生は長い旅であるのと同じで、真の成長や上達もまた、長い旅です。
 

速習可能な護身術と言える本当の理由

ではあらため、クラヴマガは民間向けであっても、なぜ他の格闘技や武道に比べて実戦的な護身術が短期間で身につくと言われているのかを、2つの点からお伝えします。

「ルールなし」が専門

それは、クラヴマガが様々な格闘技から、実戦で使える技術だけを広く吸収し、最初からルールの無い世界を想定して設計されているからです。
 

武道や格闘技にはそれぞれ固有のルールがあり、その中での専門的な技術や戦術に特化しています。ボクシングは「パンチのみのルール」の専門であり、素晴らしいパンチが打てるようになります。柔術は「寝技のみのルール」の専門で、華麗なグラウンドテクニックが身につきます。



一方で、クラヴマガでは美しいパンチも達人の極め技も身につきません。あくまでもOKレベルです。ただ決定的に違うのは、クラヴマガは「ルールなし」の世界を専門とすることです。
 

路上で起きうる危険については、どの格闘技よりも広い観点で、最も現実的かつ効率的にアプローチしているのがクラヴマガです。

戦わない選択が実戦的

もう一つの理由を説明します。クラヴマガでは最初の3ヵ月で、危険察知や危険回避の重要性を教えます。例えば、外を出歩くときは周囲に対する警戒心をもち、仮に不審者がいればそれに気づくような行動をとること。そして危険の兆候を見つけたら、迷わずそこから離れることを教えます。
 
現実的にはこれだけで、護身に必要な95%の意識と技術は身についていると言っていいでしょう。相手と向かい合う前にその場から離れればいい。戦わずして離れる。これだけで危険遭遇するリスクは大幅に低減し、不安も減るはずです。



他の武道や格闘技の多くは、相手と戦うことが前提で設計されています。相手と向かい合った後にどう戦うか、その技術を扱います。しかし現実の社会では、戦わないのが得策です。相手と向き合う前に危険に気づき回避することが、護身術として実用的です。
 
クラヴマガは最初にこの考え方を教えることも、他のシステムに比べて実戦的だと言える大きな理由でしょう。
 
素晴らしい技術を身につけるには時間を要しますし、数カ月では到底無理な話です。しかし護身に必要な基本技術を幅広く学んだり、トラブル回避のための正しい意識を持つことはできます。それだけでも現実に起こり得る問題の多くを解決できるでしょう。
 
こんな理由から、クラヴマガは実戦的で速習可能な護身システムだと言われているのです。

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この記事の監修者
ジュリアン リトルトン
南アフリカ生まれ。19歳よりイスラエル国防軍(Israeli Defense Forces)に従事。国境警備、空港警備、人質救護など、数々の危険度の高いミッションに携わってきたセキュリティーのスペシャリスト。日本在住者で彼以上にクラヴマガを体現している人物はいないといっていい人物。 2016年から2018年にかけては、他国の大統領警護チームに対する技術訓練責任者として従事。クラヴマガとその警護への応用はもちろん、セキュリティに関する広範な知識と技術を他国へも教授した。2018年よりマガジムでクラスを指導。実戦的過ぎるクラスは大好評で、マガジムインストラクター達へのクラヴマガの神髄を伝える役割も果たしている。
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