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How To 護身術

- How To Goshinjutsu -

護身術とは

クラヴマガとは?実戦で効果的な護身術のすべて

2023.09.01


クラヴマガは、イスラエルで開発された近接格闘術で、実戦で効果的な護身術として、イスラエル軍や警察で採用されています。
本記事では、クラヴマガについて、どこよりも詳しく解説します。

クラヴマガとは?

クラヴマガは1940年代にイスラエルの軍で開発された接近格闘術です。
戦火の絶えないイスラエルでは男女ともに徴兵制度があるため、性別や体格を問わず、短い訓練でも身につきやすく実戦で役立つ格闘術が必要となりました。そこで生まれたのがクラヴマガです。
 

その速習性と限りなく実戦に特化した点が高く評価され、米国FBIやSWAT、その他各国の軍や警察でも導入されました。
 
現在では誰でも習える実戦的な護身術として世界に広まり、2002年に日本上陸、その後国内にもクラヴマガの専用ジムやクラヴマガが習える教室が徐々に増えました。

クラヴマガの生い立ち


クラヴマガはハンガリー生まれのイスラエルのマーシャルアーツ専門家であるイミ・リヒテンフェルドによって開発されました。
 

警察官の父を持ち運動神経が万能だったイミは若いころ、体操やレスリング、ボクシングに熱中し、全ての分野でチャンピオンになるほどの腕の持ち主でした。
 

1930年代半ばにブラチスラバでのユダヤ人排斥運動が高まりましたが、イミを中心としたユダヤ人ボクサーやレスラーのグループが迫害に対抗しました。
 

これらの暴動を経験したイミは、ボクシングやレスリングなどの格闘技は競技としては優れているものの、ストリートファイトでは決して十分ではないことを痛感しました。
 

そこで、格闘技の技術の中でも実戦で効果的なものだけを取り入れ、体系化したのです。それが後のクラヴマガの原型となりました。
 

その後イスラエルに渡ったイミはイスラエル国防軍(IDF)における接近格闘術の教官となり、クラヴマガを軍の正式な格闘術として確立させました。それがクラヴマガの始まりです。

格闘技とクラヴマガの違いは?

格闘技は主に、競技制のあるスポーツとして親しまれています。同じ性別で体格(体重)の近い相手と、素手やグローブを着用し、ほぼ「等しい条件」のもと準備万端な状態から戦いが始まります。
 

また一般的に、股間や目など急所への攻撃はルールで禁止されているため、ある程度は安全が確保された中で勝敗を争います。つまり、ルールのある中で相手に「勝つ」ことが目的です。
 

そのような格闘技の中から、実戦に使えるテクニックを多々取り入れ体系化したのがクラヴマガ。従って、クラヴマガと格闘技の間に共通点は多々存在します。
 

一方で、クラヴマガが想定している環境と目的は、格闘技とは大きく異なります。

「夜道で突然、小柄な女性に対し、大柄な男性がナイフで脅してきたら?」
「エレベーターで背後から複数の相手に襲われたら?」

性別も違えば体格も違う。おまけに相手は武器をもっているかもしれないし、複数いるかもしれない。
 

このように、クラヴマガが想定している環境は自分が戦いに何の準備もできておらず、圧倒的に「不利な条件」です。
 

そして危険から安全に逃れられること、身を「守る」ことこそが、クラヴマガの目的です。相手に勝つ必要はありません。
圧倒的に不利な状態であっても、急所を攻撃して相手をひるませ、逃げる隙を確保して危険から脱出する。
 

こんな路上で起きうるストリートファイトへの対処方法こそがクラヴマガであり、格闘技とは似て非なるものなのです。

他の護身術との違いは?

日本で護身術というと、多くの方が連想されるのは合気道かもしれません。
合気道の達人が、洗練された身のこなしや所作で相手を倒す様は驚愕ですが、そんな映像をご覧になったことがあるかもしれませんね。
また柔道は警察でも取り入れられているため、護身術のイメージを持っている方も少なからずいらっしゃると思います。
 

しかし、これらは純然たる護身術というよりも武道そのものであり、護身術以外の要素も多分に含まれているのも事実です。
精神修行や礼法を重視していることはもちろん、初心者はひたすら基礎鍛錬を繰り返すことが求められる傾向にあります。
 

それを経て、徐々にレベルを上げ、数年の修業の後に実戦に耐えうる護身能力が身につくというステップです。
 

一方でクラヴマガのアプローチはどうでしょう。
 

多くのクラヴマガのトレーニングでは初回から、「もし正面から首を絞められたら」「背後から羽交い絞めにされたら」「ナイフで脅されたら」といった、具体的な危険を想定したシナリオトレーニングを行います。
 

そこにカタや形式、儀礼は一切ありません。
危険のシナリオごとに体系化された護身の基本動作(いずれも「危険の解除とコントロール」→「反撃」→「素早く逃げる」のという流れで構成されます)を、まずは繰り返し練習します。これは、基礎体力や格闘技経験の有無に関わらず、誰が習う場合でも共通です。

護身の基本的動作を練習したら、アタッカー(攻撃者)とディフェンダー(護身者)の2人1組で対人練習を行います。そして上手く技ができなかったとしても、それ以上にアグレッシブに相手に立ち向かう姿勢を重要視します。
 

誤解を恐れず言うのであれば、仮に少々下手であっても、危険に対してアグレッシブに抵抗できるこそが弱点をカバーし、問題を解決する。そんなアプローチがクラヴマガの考え方です。そこは武道をルーツとする護身術とは大きく異なるでしょう。
 

もちろん前述した武道は護身術としても大変優れたシステムですが、ストリートファイトの対策を想定するうえでは、クラヴマガとアプローチが大きく異なると言えます。
 

その結果、クラヴマガは他の護身術と比較すると性別や年齢、体格を問わず誰でも短期間で実戦に使える護身術が身につけやすいという特徴があると言われています。

クラヴマガはどんな人が向いているのか?

クラヴマガは、身体的な防衛技術を短期間で習得したい人や、自信を高めたい人に特におすすめです。また、実戦的なシナリオで自分自身を守る方法を学びたいと考えている人にも適しています。

クラヴマガを学ぶメリット

クラヴマガを学ぶことで、身体的なスキルだけでなく、緊急時の状況判断力や危機管理能力も向上します。また、クラヴマガはフィットネスと健康の向上にも寄与し、一般的なウェルネスと自信向上につながります。

クラヴマガのテクニック

それでは、護身術にクラヴマガを取り入れることでどれほど実践になるのか、テクニックについて解説していきます。

人間が本能的にもつ条件反射の動きを利用


ではなぜクラヴマガを習うと、誰でも短期間で実戦に使える護身の技が身につきやすいのでしょうか。秘密は条件反射の動きを利用していることにあります。
 

人は突然襲われるとパニック状態になり、頭は真っ白、思考は停止してしまいます。するとせっかく覚えていた護身の技も、実際の現場では何の役にも立たないかもしれません。
クラヴマガの護身の技、特に危険の解除に関わる初動には、人間が本能的に備えている条件反射の動きが活用されています。
 

条件反射とは、考えなくても本能から自然に出る動きですので、パニック下にあっても動きが再現されやすいのです。これが誰でもクラヴマガを身につけやすくしている理由の一つです。

パニック状態を想定したトレーニング


条件反射を活用した動きを採り入れているとはいえ、それだけでパニック下に護身の技が再現できるとは言い切れません。さらなる秘訣はクラヴマガのユニークなトレーニング方法にあります。
 

「暗闇で大音量の音楽が流れている中で突然、後ろから首を絞められる」
「ミットに向かって全力でパンチやキックを出している背後から、不意に羽交い絞めされる」
 

このような不利な条件をトレーニングで創り出すことで、護身をする者に大きなストレスを与え、疑似的なパニック状態を作ります。
そこから護身動作を繰り返し行うことにより、頭で考えなくてもカラダが動きを記憶し、本当の危険時にも再現できるようになるのです。
 

言い換えれば、予期せずして起こる脅威や圧力に対し、カラダに正しい反応を覚えこませる作業がクラヴマガのトレーニングなのです。
 

これらはクラヴマガの「ストレスドリル」と呼ばれており、実戦で使える護身の技を速習可能にしています。

シンプルでアグレッシブなシステム


世界の他の護身術と比較しても、クラヴマガは大変アグレッシブなシステムであることで有名です。
急に訪れる危険からパニック状態に陥り、何も抵抗できなくなってしまっては相手の思うつぼ。最悪の場合、命すら落としかねません。
 

クラヴマガの考え方は、必要であればゼロから100に一気にスイッチをいれ、突然の危険に全力で抵抗し、急所に反撃を加え、相手を一瞬でも無力化することが身を守る合理的な方法であるというものです。
技ひとつひとつも複雑で難解な動きは含まれず、極めてシンプルです。アクロバティックな動きや柔軟性を要求する動きはほとんどありません。
 

護身テクニックの習熟度が不十分だったり、体力や体格が相手より下だったとしても、このアグレッシブな姿勢こそが窮地から脱する重要な鍵です。
 

逆に言えばアグレッシブな姿勢が無ければ、いくら技の細部まで習得したところで、本気で襲ってくる相手から身を守るのは難しいでしょう。
 

細かく正確性を求めることだけに時間を費やすよりも、シンプルなシステムをいつでもアグレッシブに発揮できるようトレーニングを重ねる方が、多くの人にとっては実戦的というのがクラヴマガの考えです。冷静な時に技を綺麗に出せるだけでは実用性は乏しく、ストレス下に置かれたときに、汚くても技をアグレッシブに出せることこそ、自分の身を守るには欠かせない要素です。
 

何よりもクラヴマガが世界のスペシャリスト集団に採用され、彼らがクラヴマガを身につけて危険な任務を遂行しているという事実がそれを証明しているでしょう。

急所への反撃(カウンター)


前項でクラヴマガがアグレッシブな護身術であることを触れましたが、反撃(カウンター)する対象がどこであるかは大変重要です。反撃が十分効かなければ、相手を逆上させるだけの結果になりかねないからです。
 

急所とは、股間・喉もと・眼など、いくら屈強で肉体的に強い人であっても鍛えることができない箇所を指します。
 

仮に体格の小さい女性であっても、急所に有効な攻撃ができれば相手は一瞬、無力化して襲うことができなくなります。その瞬間を使って逃げ、安全を確保するのです。逆に言えば、短時間であっても相手を無力化できないと、逃げたところでまた追いつかれてしまい、次なる危険が発生するリスクがあります。
 

この合理的な考え方と技術が、クラヴマガを実戦的な護身術にしています。

防御と反撃が同時


クラヴマガの多くのテクニックに共通して言えることは、「危険の解除(ディフェンス)と相手への反撃(カウンター)を同時に行う」ことです。
 

・首を絞められたら、素早く両手で首絞めを解除すると同時に、相手の股間を蹴り上げる。
・ナイフを振り下ろして来たら、相手の手首を自分の前腕でブロックすると同時に、もう片方の手で顔面にパンチ
 

これはその例ですが、クラヴマガではディフェンスとカウンターを同時に行うよう、カラダに覚えこませます。それが危険時に実戦的に機能する理由は主に2つ。
 

・ディフェンスとカウンターに間があると、相手がディフェンスに反応して違った状況に変化し、複雑になる恐れがある。複雑化する前に相手を無力化する方が、問題を解決するには合理的。
・ディフェンスとカウンターを別々の動きで覚えてしまうと、ストレス下ではカウンターが放てない可能性がある。
 

日ごろから同時の動きを覚えておけばストレス下でも、若干のタイムラグは発生するかもしれないものの、護身に有効なカウンターを放つことができる。

現場で試され、日々進化するシステム


クラヴマガは、イスラエル軍はもちろん、米国陸海空軍の様々な部隊や各州の警察により、日々の任務遂行のために使われています。
 

その結果、軍や警察のオペレーター達から、どのテクニックが実際の現場で使えたか、どのテクニックには改善の余地があるのかといったフィードバックが提供されています。
フィードバックを受けたクラヴマガの国際組織(マガジムが提携している先でいえばKrav Maga Allianceがその一例です)はその経験を活かし、クラヴマガを今日の危険に更に相応しくなるよう、改善を施します。
 

結果、現実世界で使われ、進化・改善されたものがクラヴマガの技術として体系づけられるので、クラヴマガが実戦的であることに疑いの余地は無いでしょう。

動けるカラダと強いココロが手に入る


クラヴマガのもう一つの効果は「戦えるカラダ」すなわち「動けるカラダと強いココロが手に入る」ことです。
 

クラヴマガの護身で求められるアグレッシブな姿勢を身につけるためには当然、アグレッシブで激しいトレーニングを重ねる必要があります。
 

実戦を徹底的に意識しているクラヴマガのトレーニングは、様々な危険を想定しており、中にはヘトヘトに消耗しきっている最悪のケースも含みます。
 

その状況でも身を守るためには、諦めることなく抵抗し、むしろ相手を圧倒する必要がありますので、トレーニングでは全身ヘトヘトにしながら、それでもアグレッシブに動くことが要求されます。
 

例えばパンチやキックの練習では、第三者に邪魔をされた中、30秒から1分程度の間、全力でミットを殴り蹴り続ける「ラッシュ」のドリルを日常的に行います。インストラクターの号令のもとスイッチを一瞬で切替え、邪魔が入ろうが抵抗されようが動じることなくターゲットを100パーセントの力で撃ち続けるのです。
 

こんなトレーニングは実戦に役立つのはもちろん、カラダを鍛え、スタミナをつけ、強いメンタルを養ううえで驚くほど効果的。いざという危険に直面したときに動けるカラダと諦めないココロが無ければ、いくら技ばかり習っても実戦では使えません。
 

実戦的な護身術の習得という点でも、鍛えられたカラダとココロは不可欠なのです。


一方、普通のジムには通っていたけれど、トレッドミルの上を黙々と走るのはもう飽きた、一人でやる筋トレもなかなか続かないという方が、楽しく続けられる新たなものを探しているのも事実です。
 

そんな方にとっても、新しく常に刺激に満ちたトレーニングを提供するクラヴマガはぴったりです。クラヴマガのトレーニングは、どんな方に対しても門戸が開かれているのです。
 

そして多くのクラヴマガのインストラクターは、トレーニングの追い込みの「達人」です。インストラクターに励まされながら、場合によっては程よく追い込まれながらトレーニングに取り組むと、いつのまにか今まで限界と思い込んでいた一線を越えて頑張ってしまうもの。一人で黙々とこなすトレーニングよりも、飛躍的にパフォーマンス向上につながるのは言うまでもありません。
 

クラヴマガトレーニングは、どちらかというとカロリー消費や脂肪燃焼よりも、実戦で使える爆発力やカラダの強さ、スタミナを養うことにフォーカスしたダイナミックな運動が主体です。その結果、・引き締まった身体・俊敏性やスピード・スタミナ・運動や身体づくりへの関心・全般的な自信が育まれます。

クラヴマガの豆知識

(1)クラヴマガは普通名詞

「クラヴマガ」という言葉は今まであまり聞いたことが無かったかもしれませんが、これは「柔道」や「空手」と同様に、格闘術の名称(=普通名詞)であり、どこか特定のジム名やサービス名を指すもの(=固有名詞)ではありません。
 

「クラヴマガ」は普通名詞ですが、「クラヴマガ」を習えるジムの「マガジム」は固有名詞です。
 

身体を動かすスポーツという意味で広く言えば、「サッカー」や「野球」のような競技名だとお考え下さい。(厳密には、クラヴマガに競技制は無いので、競技名という表現は正しくありません。)

(2)ヘブライ語で「接近戦闘術」

クラヴマガを英文表記すると「Krav Maga」。「Krav」はヘブライ語で「戦闘」の意味、「Maga」は「近接・接触」の意味を持ちます。
つまり「近接戦闘術」という意味をもつヘブライ語なのです。ちなみに英語にすると「Contact Combat」です。

(3)国によって異なるクラヴマガの略称

「Krav Maga」をカタカナ表記する方法として「クラヴマガ」と「クラブマガ」の2つが存在しますが、アルファベット「V」はカナ表記すると「ヴ」が近いので、今日では「クラヴマガ」が日本語表記として採用されています。
 

一方で日本語で音だけ聞くと「クラブ・マガ」に聞こえ、そこから「Club Maga」のような「マガ」というクラブがあるのだと勘違いされている方が多いのも事実です。その結果か、日本ではクラヴマガを略して「マガ」と呼ぶ方が多くいます。
 

一方でアメリカではクラヴマガは「Krav」と略して呼ばれることは多くあっても、「Maga」と呼ばれることはあまりありません。国によって略称が異なるのも興味深い事実です。

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この記事の監修者
西尾 健
1975年11月生まれ。広島県出身。クラヴマガブラックベルト(黒帯)一段保有。クラヴマガ指導歴15年、国内トップレベルの技術とクラヴマガ指導経験をもつインストラクター。歯切れがよく運動量も豊富でアグレッシブなトレーニングスタイルは大変特徴的で、担当するクラスのファンは実に多い。日本におけるクラヴマガのレジェンドインストラクターの一人。クラスにおける軍曹ばりのしごきはとてもハードな一方、心身ともに抜群に鍛えられるため大人気。柔術の経験も豊富。マガジム六本木店 チーフインストラクター。