ジュリアン リトルトン
南アフリカ生まれ。19歳よりイスラエル国防軍(Israeli Defense Forces)に従事。国境警備、空港警備、人質救護など、数々の危険度の高いミッションに携わってきたセキュリティーのスペシャリスト。日本在住者で彼以上にクラヴマガを体現している人物はいないといっていい人物。 2016年から2018年にかけては、他国の大統領警護チームに対する技術訓練責任者として従事。クラヴマガとその警護への応用はもちろん、セキュリティに関する広範な知識と技術を他国へも教授した。2018年よりマガジムでクラスを指導。実戦的過ぎるクラスは大好評で、マガジムインストラクター達へのクラヴマガの神髄を伝える役割も果たしている。

クラヴマガのメンタル効果

2024.05.19

情報化社会のメンタルへの弊害

今日は「クラヴマガのメンタル効果」についてお話をします。クラヴマガのトレーニングがメンタルにどう影響を与え、心の健康にどう貢献しうるのか、様々な角度から触れていきましょう。
 
日々暮らしているといい日もあれば嫌な日もあります。コンディションによっても気分は異なりますよね。



今日は異常なほどの情報社会で、洪水のように溢れかえっています。情報の移り変わりは早く、また多く、ゆっくり処理をする時間がありません。世の中の変化は速く何事にもスピードが求められ「タイパ(タイムパフォーマンス)」なんていう言葉も生まれています。
 
これは進化なのかもしれませんが、一方で弊害も生まれています。短期間で多くの成果を求められることによる、過度な緊張やストレスです。それがメンタルに様々な問題を与えています。
 
またFacebookやインスタグラムといったSNSの登場も精神的弊害をもたらしています。スマホにかじりつくSNS中毒は典型的な現代病で、それによって不要な感情やストレスを溜め、メンタルに悪影響を受けている人はたくさんいます。
 

運動がもたらすメンタル効果

さてここで身体を動かすことがメンタルに与える影響について触れましょう。
 
適度な強度の運動をすると脳内ホルモン「エンドルフィン」が分泌されます。ジョギングをする、泳ぐ、ジムに行くといったどんな運動であれ、終わったあとにエンドルフィンが分泌されることで、達成感や多幸感が得られます。



運動を始める時はしんどいですが、終わってみるとスッキリ幸せな気持ちになる。トレーニング経験者であれば、何度も味わったことがあるでしょう。
 

「自分のカラダにいいことをした!」「最後までやりきった!」という満足感や達成感です。とても生産性の高い時間を過ごしたという、ポジティブな気持ちで満たされます。

 

運動からは短時間で達成感が得られます。毎日トレーニングすれば毎日得られるでしょうし、3日に一度であればその都度、満たされた気持ちになります。
 
では、日ごろの生活にそんな機会がそこまであるでしょうか。例えば仕事で年単位のプロジェクトに関わっている方がいたとします。長期の仕事だと成果が出るのは数年に一度で、達成感を得られる機会は多くないかもしれません。そんな中モチベーション高く仕事に集中し続けるのは、簡単なことではありません。
 
だから運動から得られる小さな達成感の積み重ねが大切なのです。それが日々の不安を解消したり、ネガティブになりそうなところをポジティブに変えたりします。日常生活にヤル気を出させ、前向きにな気持ちにさせるのが、運動のメンタルに与える効果です。
 

競技から学ぶメンタル向上

運動のなかでも勝ち負けのある競技について考えましょう。格闘技やテニスのような個人競技であれ、野球やサッカーのような団体競技であれ、勝ち負けがあります。勝利から得られる達成感はとても大きなものです。負けた時ですら、辛いですが、何度か経験していくうちにそれとどう向き合い、いかにして次への糧とするかを学びます。



団体競技の場合は周囲とのコミュニケーションの大切さを学びます。集団に属し、そこで共有の目的に向かって努力することを経験します。
 

人間は一人では生きていけません。生活するには社会性が必要です。団体競技を通じて仲間と共通のゴールに向かって切磋琢磨することから多くの教訓が得られます。うまくいったときは褒め、挫折しそうになったら励まし合う。負けたとしても前を向いて次に進む。そんなチームワークを通じた経験は、健全なメンタルの育成に大きく貢献するでしょう。
 

格闘技のメンタル強化

次は格闘技です。格闘技はどの競技であっても高い戦略性とメンタルの強さが問われます。ストレスのかかった逆境をいかに乗り切るかが重要であり、そこにはメンタルの強さが重要です。
 
あの人はメンタルが強い、あの人は弱い、とう表現をよく聞きます。あたかもメンタルは生まれつき備わったもので鍛えようがないと誤解されがちです。しかしフィジカルと同じで鍛えれば強くなるものです。ハードな状況をたくさん経験しそれを克服する訓練を積めば、いずれはストレス下の困難な状況も乗り切る力を養えます。
 
私たちは誰でも、嫌なことや辛いことは避けたがるものですが、困難を数多く経験し対処方法を覚え、解決策を身につけていくと徐々に負けないメンタルに変わります。



その対処法を学ぶには、ボクシング・キックボクシング・柔術など、あらゆる格闘技が適しています。ピンチを頭とカラダが経験するうちに、そのストレスに慣れ、やがては対処法を覚え、更に繰り返すことで解決力がつきます。
 
パニックになりそうな時ほど、リラックスすることが大切です。力めば力むほどカラダは膠着して状況は悪化しますが、一旦深呼吸し冷静さを取り戻すと「実は以前経験したのと同じ状況だ」と気づき、対応策を思い出し解決できる確率が高まります。
 
日常生活でも同じです。パニックで視野が狭くなっては正しい判断ができませんが、一旦冷静になることで過去の経験を思い出し、解決策に気づくことがあります。格闘技を通じて得たメンタル力がこうして生活に活きることはご理解頂けるでしょう。

クラヴマガのメンタル効果

急激な変化への対応

そしてクラヴマガです。前述した他の格闘技と同様、ストレス下こそリラックスして冷静さを保つことが問われます。ただそれとの大きな違いは、冷静さに加えて時には爆発力が問われることです。
 
ストリートで起きうる危険は前触れなく突然で、そこには瞬時に状況を打破することが求められます。冷静な判断力と状況に応じた爆発力。護身にはその急なスイッチの切り替えが必要です。ゆっくり歩いていたところを突然全力で走って逃げなければいけないとか、倒されたらすぐに立ち上がり全力で逃げ切らなければいけないなど、緩急を問われるのがストリートです。



この急激な変化への対応力は、今日の変化の激しい社会への対応力に相通じます。リラックスからハイテンションへ、スローからクイックへ。一定のリズムでは無く、静から動へ、動から静への急激な切り替えが求められるのが現代社会です。それは決して簡単ではなく誰もが躓きがちですが、クラヴマガのトレーニングを通じて疑似体験し、その対応力を養うことは大切です。

時には攻撃的になること

クラヴマガが持つもう一つの側面は現実的な危険を扱っているという点です。トラブルでは衝突は避け、力に頼らず穏便な解決策を最優先すべきですが、時と場合によっては自分が攻撃的にならないと解決できないことがあるのも事実です。
 
それは日ごろの生活でも一緒です。時には相手の言い分を受け入れるばかりでは無く、自分の主張を突き付けることも必要ですよね。多くの人は「NO」を言うのを避けがちですが、必要な時ははっきりと言えることは大切です。それと同様、護身においても時によっては攻撃的になる必要があるのです。その事実をクラヴマガを通じて学びます。
 
一般的に武道や格闘技は感情を出すことに否定的です。「興奮してはだめ」「怒ったら負け」「常に冷静にリラックスして」と教えます。それには一理ありますが、クラヴマガは異なります。時には自分の感情に素直になることを是とします。



人間には誰にだって感情があるものです。時には感情を押さえつけず、怒ってもいいのです。ただしその感情をうまくやりくりする方法を身につけることが大切です。それは感情を押し殺すことではありません。我慢したところで、あとからそのしわ寄せが現れるものであり、長い目では解決になりません。
 
例えば上司に理不尽なことを言われたのに我慢したとします。その場は耐えられても帰宅後、家族を感情のはけ口にしてあたってしまっては、本末転倒です。感情を抱え込み過ぎ、我慢の限界を超えて自分のメンタルが崩壊したらそれこそ終わりです。
 
ため込むことなく、うまく感情と向き合い吐き出すことは、自らのメンタルヘルス上とても大切です。それには怒りを開放してあげることが大切なのです。ただし感情に任せた言い方をしてしまえば、相手との関係は悪化するだけです。「健全な怒りの表現」を覚えることで状況は改善します。クラヴマガのトレーニングはその訓練の機会になり得ます。

自分の経験から学んだこと

個人的なお話しをします。2023年10月7日(のイスラエルとハマスの衝突勃発)からこの数か月間、私はとてもストレスに満ちた時間を過ごしてきました。私がかつて任務をともにした仲間たちが戦場におかれることになりました。私は現場から遠く離れているので、何をすることもできず、ただ傍観して友人たちからの知らせを待つばかりです。情報は断片的にしか入ってきませんし、親しい友達と2~3週間音信不通になることもしばしばでした。そんは時間はストレスに満ちており、気持ちが壊れそうにもなりました。
 
そこで気づいたのが身体を動かすことの大切さです。このストレスと上手く付き合っていくためには今まで以上にカラダを動かし、トレーニングを通じてエンドルフィンやセロトニンを放出する必要があると。このストレスのはけ口を見つけなければいけない。そういう理由でこの数カ月、自らのフィジカルトレーニングに集中して取り組みました。



以前より通う柔術ジムには極力頻繁に行き、スイミングも再開し(イスラエル滞在時は毎日数キロ泳いでいました)その他あらゆるトレーニングに取組みました。
 
クラス指導をしていると何人かの会員の方は私を気遣い「ジュリアン大丈夫?」「友達は無事?」と心配の言葉をかけてくれました。細かいことまでは話せませんでしたが、私を気にかけてくれる人がここにいることに、大きな意味がありました。私は一人ではない、気にかけてくれる人がいると感じれたことはとても貴重でした。
 
これが過去半年あまりの私の奮闘です。
 
今は時間もたち、状況も少しずつ変わってきたのでこうやって話せていますが、それまでは毎日が心配に襲われる日々で、頭から離れることはなく、辛い時間でした。
 
そんな時インストラクターとして肝心なことを忘れていると気づいたのです。会員の皆さんには日頃から、身体を動かすことがどれだけメンタルに良いかを伝えているはずなのに、自分におろそかだったのです。他人に言うだけではなく、自らも実践しなければダメだ。人を気にする前に自分を心配しないとダメだと気づきました。



とある偉人の言葉です。
 
「他人を心配するまえに、自分を心配しなさい。自分をおろそかにしなければ、周りはあなたを心配しないで済みます。(それは周りのためにもなるのです)」
 
自分自身のケアがしっかりできていれば、周りから心配される事態に陥りません。つまり周りに迷惑をかけることはありません。
 
あなたが大切にすべきは他人よりまず、あなた自身です。まず自分が心身ともに健康で、幸せでいることが、人としての責任です。あなた自身をおろそかにせず、大切にしてください。

健康なメンタルを保つために

私はクラヴマガインストラクターですが、クラヴマガに限らず何であれ、楽しんでカラダを動かすものを見つけてみてください。仕事や家庭の日常を忘れ、カラダを動かすことに没頭してみてください。必ずあなたのメンタルは改善します。
 
その事実はいくつもの研究で証明されています。元来、人間はアクティブな生活をするようにできています。外で走り回って獲物を追い食べ物を得て、日々達成感を得ながら生活してきたのが人類です。人間はそうやって心身のバランスと健康を保ってきたのです。



一方で現代はどうでしょう。お日様を浴びず終日オフィスにこもり、画面の前に座りっぱなし。移動は車でほとんどカラダを動かさないのがあたりまえです。買い物もボタンをポチっと押すだけで、お店に行く必要すらありません。それは人類の長い歴史から見たら、つい最近生まれたばかりのライフスタイルで、極めて不自然でおかしなことです。
 

こんな今こそ身体をしっかり動かし、エンドルフィンやセロトニンを放出すことが大切です。それがあなたのメンタルを健全に保ち、毎日を前向きにします。運動を始めればメンタルの変化はすぐ現れ、また長く続ければ続けるほど強度は高まります。
 
冒頭にも述べましたが、いい日もあれば悪い日もあります。嫌なことが突然訪れることだってあります。そんな時でも普段からメンタルが健全でいれば、少々気持ちが落込むことはあってもリカバリーできます。メンタルが脆弱だと、何かが起きた時のダメージは大きく、最悪の場合はクラッシュします。一度でも崩壊すると、そう簡単には戻りません。
 
手遅れになる前に気づき、対処し、小さな落込み程度で済むようにしないといけません。身体を動かすことはその有力な手段の一つです。



補足ですが身体をしっかり動かすと睡眠を向上させます。また食べものから摂取した栄養を代謝し、メンタルのみならずフィジカルの健康につながります。
 
運動を通じてシェイプアップすれば当然、ルックスがよくなります。それは自信の向上につながり、人前でも堂々と歩き、はっきりと喋り、明るく前向きにふるまうことができます。それがメンタルに好影響なのは言うまでもありません。

最後に

お伝えしてきたとおりクラヴマガのメンタル効果は「運動によるメンタル改善」「競技から学ぶメンタル向上」「格闘技によるメンタル強化」「(クラヴマガ特有の)急激な変化への精神的対応力」などがありました。
 
シナリオトレーニングでは繰り返し解決困難な状況を経験し、そこから解決能力を養います。また時には感情を我慢せず「健全な感情表現」で吐き出す術を身につけます。
 
このようにクラヴマガのメンタル効果は多岐に渡ります。皆さんにはこれらの中から自分に必要な要素を選んで頂けばいいのだと思います。今月のフォーカスはこれ、来月はこれ、と変えてみてもいいかもしれません。



 

健康なメンタルを保ちより強くすることこそ、クラヴマガの重要なカギです。突然の出来事が訪れたときこそ、その力が問われます。メンタルが脆弱であっては正しい判断やとっさの動きがとれず、ストレスに飲まれてしまいます。
 

今回の話を通じ、皆さんのメンタルがより強く健康になることを、そしてクラヴマガに限らず、アクティブにカラダを動かす活動を通じて、ポジティブな毎日を送られることを願っています。

マガジムで護身術を体験
自分の身や大切な人を守るため
マガジムでクラヴマガを身につけませんか?
クラス体験のご予約はこちら
この記事の監修者
ジュリアン リトルトン
南アフリカ生まれ。19歳よりイスラエル国防軍(Israeli Defense Forces)に従事。国境警備、空港警備、人質救護など、数々の危険度の高いミッションに携わってきたセキュリティーのスペシャリスト。日本在住者で彼以上にクラヴマガを体現している人物はいないといっていい人物。 2016年から2018年にかけては、他国の大統領警護チームに対する技術訓練責任者として従事。クラヴマガとその警護への応用はもちろん、セキュリティに関する広範な知識と技術を他国へも教授した。2018年よりマガジムでクラスを指導。実戦的過ぎるクラスは大好評で、マガジムインストラクター達へのクラヴマガの神髄を伝える役割も果たしている。
PAGE TOP