2026.10.05
イスラエル国家警察の対テロ特殊部隊で格闘指導を担当した、世界のクラヴマガを代表する人物 アヴィ・ナルディア氏が、2026年10月31日と11月3日の東京セミナーに向けて、「武器解除を成功させる3つの柱」をまとめた文章を送ってくれました。
目次
刃物や銃を向けられたとき、相手の手首をひねり、武器の向きを変えて奪い取る。多くの護身術では、武器を奪う技(武器解除・ディスアーム)が、こうした一つの動きとして教えられることがよくあります。
しかし実際には、武器を確実に奪うことは、一つの技だけでできるものではありません。指導者たちの間では、武器を奪うために必要な知識を「武器の三角形」と呼び、次の三つの組み合わせで考えます。
この三つは切り離せません。武器を持った相手が、その武器を使いこなし、奪われないように持ち続けるために知っていること。それはそのまま、守る側が武器を奪うために知っておかなければならないことだからです。
この記事では、なぜこの三つを一緒に学ぶ必要があるのかを説明します。さらに、それを支える二つの力、つまり「相手に対してどこに立つか」と「相手との距離をどう保つか」、そして武器による傷がどれほど早く命に関わるのかという正しい知識についてもお話しします。
この中で最も大事なのは、相手との距離です。そもそも武器を奪いにいく必要があるのかどうかは、距離で決まるからです。
守る側が安全に武器を奪うには、武器を持っている相手と同じくらい、その武器のことを知っていなければなりません。銃とナイフはまったく違う動きをする道具です。ナイフを想定して作った技を、そのまま銃に使うことはできません。
銃は弾が切れますし、弾が途中で詰まるといった故障も比較的起きやすい道具です。一方、ナイフには弾切れがなく、壊れて使えなくなることもほとんどありません。
その武器がどうやって弾を込め、どう動き、慌てた場面でどんな故障を起こしやすいのか。そして相手がその故障をどうやって直そうとするのか。これを知っていると、守る側がいつ動くべきかが大きく変わってきます。
銃の弾は、基本的に一度に一つの方向にしか飛びません。散弾銃でも、だいたい一つの方向に向かって飛んでいきます。ところが刃物は、横に振ることで体のあちこちを一度に切ることができます。
横に振って切る攻撃(スラッシュ)は、一回の動きで体の何か所にも傷を負わせます。これに対して、まっすぐ突き刺す攻撃(スタブ)は銃に近く、一本の線の上を来る攻撃です。急所を外れた場合、横に振って切られるよりも、まっすぐ刺される方が、守る側にとっては比較的安全だと言われています。
同じ銃でも、種類が違えば扱い方が変わります。ナイフも、刃が固定されたものか折りたたみ式か、大きいか小さいかで、握り方も守り方も変わります。
とても小さな武器の場合は、武器そのものをつかもうとせず、武器を持つ相手の手を押さえる方が良いこともあります。小さすぎて、安全につかめる部分がほとんど残っていないからです。
だからこそ、武器を奪う練習は、武器の「使い方」の練習から始めなければなりません。つまり、武器を奪われないように持ち続ける技術(リテンション)、故障したときの対処、そして慌てた状況で武器を扱うことです。武器が実際にどう撃たれ、どう握られているかを分かっている人ほど、その武器のどこに弱いところがあるかを正確に見抜けるのです。
武器を持った相手は、簡単には武器を手放しません。訓練を受けた相手なら、もみ合いの最中でも、武器を離さないように必死で持ち続けます。
実は、本番で武器を奪うのに失敗する大きな理由はここにあります。技そのものは理屈に合っていても、「武器を離さない方法をよく知っている相手」に対して試したことがなければ、通用しないのです。
ですから、武器を離さない技術(武器のリテンション)を学ぶことは、武器を奪う準備のための「おまけ」ではありません。同じ技術の、裏と表なのです。
警察官などが、自分の銃を奪われないために身につけている技術があります。
ホルスターという道具は、こうした体の技術を助けるものであって、代わりになるものではありません。ホルスターが銃を固定する強さは、一般に次のように分けられています。
腰の銃を守るときには、「人の判断」「奪われない持ち方」「相手がつかみに来る角度」「相手の手を離させること」の四つを意識するように教えられます。
実際の動きとしては、銃の上に手を置いて押さえたまま、腰を落とし、打撃で相手との間に空間を作るやり方があります。また、自分の腰を相手の腰にぶつけて相手の手首を曲げさせ、握っている手を引きはがすやり方もあります。
奪われないように持ったまま撃たなければならないときは、銃を自分の脇腹にぴったりつけて、相手につかまれにくくします。同時に、銃口を少しだけ外側に向けて、銃の上の部品が服に引っかからずに動くようにします。
ナイフのリテンションで、武器を奪う話と最も深く関わるのは、もみ合いの最中にナイフを持ち続けることです。
大事な点がいくつかあります。肘を締めて、刃を体の真ん中の近くに保つこと。ナイフを腕とまっすぐ一直線にそろえて、力が逃げないようにすること。そして相手にナイフをつかまれたら、まっすぐ引き抜こうとするのではなく、相手の親指の側、つまり握りがいちばん弱いところに向かって回して、握りをほどくことです。
握り方の選び方も大切です。普通に包丁を持つような握り方(順手)は、遠くまで届き、ナイフを思い通りに動かしやすくなります。逆手(刃が小指の側から下に出る握り方)は、届く距離が短くなるかわりに、手から離れにくくなります。また、指を通す輪がついたナイフのように、手に武器を固定してしまう作りのものもあります。
訓練を受けた相手は、全力で武器を持ち続けようとします。ですから、どんな相手にも、どんな場面にも通じる、ただ一つの奪い方というものは存在しません。
武器がどう使われ、どう持ち続けられるのかを知らずに、技の形だけを覚えた人は、相手が本気で抵抗した瞬間に、「教わった通りにいかない」と気づくことになります。
これは、強盗や誘拐、人質を取られた事件のように、相手が何人もいる場面にも関わります。一人から武器を奪えたからといって、次々に全員から奪おうとしてはいけません。奪った武器をすぐに使いこなすこと、そしてその場から離れて逃げることの方が、身の安全のためには先になることが多いのです。
ここで言う「立つ位置」とは、相手に対して自分の体がどちらを向き、どれだけ離れ、どの方向にいるかということです。決まった構えとは違い、立つ位置は向かい合っている間ずっと変わり続けます。そして、武器を奪いにいくことがそもそもできるのかどうかに、直接関わってきます。
アヴィ氏は、攻撃の線から外れることを「Lを作る」と言います。相手の攻撃がまっすぐ来る線が「Lの長い線」、そこから右か左へ横に出る動きが「Lの短い線」です。逃げるときは、できるだけこのLの形で逃げ、線の上をまっすぐ後ろへ下がることは避けます。線の上にいる限り、相手はそのままの向きで追い続けられますが、線から横へ外れると、相手は向きを変えなければならず、その分だけ追う動きが遅くなるからです。
もみ合いが体の密着した状態や、地面に倒れた状態にまでなると、位置には、はっきりとした有利・不利の順番ができます。
いちばん有利なのは、相手の背中側に回り、両脚を相手の腰に絡めた状態(バックマウント)です。相手はこちらを見ることも、打ち返すこともできません。次に、相手の胸の上にまたがった状態(マウント)は、体重をかけやすく、手も届きやすくなります。相手の横から押さえ込んだ状態(サイドコントロール)では、相手の肩を固定できます。
この順番を知っていれば、今すぐ武器を奪いにいくのが現実的なのか、それともまず自分の位置を良くすることが先なのかを判断できます。
武器による傷が、体の中でどんなことを引き起こすのかを知っている人は、武器を奪う試みが失敗したときも、うまくいったときも、それにふさわしい真剣さで向き合うことができます。
大量の出血で亡くなるのは、体を流れる血が大きく減り、心臓が酸素を含んだ血を大事な臓器に送れなくなったときです。
動脈(心臓から送り出される血が通る血管)は、強い圧で脈を打ちながら血が噴き出すので、静脈や細い血管よりもはるかに危険です。首、胴体、太ももなどの大事な場所の傷は、最も早く血を失わせます。
一方で、傷口を強くじかに押さえ続けたり、止血帯(腕や脚をきつく縛って血を止める道具)を使ったりすれば、救急隊が着くまで生きていられる時間を大きく延ばすことができます。
この知識は、武器を奪う話と直接つながっています。横に振って切るナイフの攻撃(スラッシュ)は、一回の動きで体の何か所も、何本もの血管を切り開くことがあります。急所を外れた場合の、まっすぐ刺される攻撃や銃弾よりも、一般に危険だとされるのはこのためです。
そしてこのことは、武器が関わるあらゆる場面で、攻撃を受け止めることよりも、距離と角度を自分で決めることこそが何より先だということを裏付けています。
ここまでお話ししてきたことは、すべて「相手との距離」の中でしか意味を持ちません。
距離を保つとは、自分と相手の間の空間を自分で決めることです。相手の武器が届かないところにいながら、自分は動ける状態を保つ技術です。そして、そもそも武器を奪わなければならない状況を避けられるという意味で、これが最も大事な要素です。
目安としてよく知られているのが、「21フィートルール(約6メートルの決まり)」です。アメリカの警察官の訓練(タラー・ドリル)から生まれた考え方で、刃物を持った相手は、約6メートル(21フィート)の距離であれば、銃を腰から抜いて撃つより先に、飛び込んで来て切りつけることができる、というものです。
つまり、そもそも武器を奪いにいくべきかどうかを決めるのは、距離なのです。武器を離さない方法をよく知っている相手に、間違った距離で奪いにいけば、失敗する可能性はずっと高くなります。そして先ほどお話しした出血の怖さは、その失敗がどれほど許されないものかをはっきりと示しています。
武器の使い方、武器を離さない技術、奪う技(ディスアーム)、立つ位置、そして失敗したときの命の危険。これらを理解することは欠かせません。しかし本当に緊張した場面では、人はたくさんのことを思い出せません。知識をもとにすぐ動ける、単純でくり返し練習できる手順が必要です。
そこで、警察などの関係者にも一般の人にも教えられているのが「SPEC(スペック)」という手順です。ここまでの考え方を、慌てた場面でも思い出しやすく、くり返し練習しやすい四つの順番にまとめたものです。
S:押さえる(Secure)
武器そのものを奪おうとする前に、まず武器か、武器を持つ手や腕を、しっかり押さえます。ここでは「武器を離さない技術(リテンション)」を逆向きに使います。訓練を受けた相手が武器を持ち続けるために使う握り方、角度、力のかけ方を、今度は守る側が、武器を奪うために使うのです。
P:位置を取る(Position)
武器の攻撃の線から外れ、力をかけやすい位置に立ちます。相手の外側に回る、攻撃の線から横にずれる、あるいは体をぴったりくっつけて、相手が武器を振れないようにするといった位置です。良い位置が取れていなければ、押さえた手だけでは持ちこたえられません。
E:離させる(Effect)
相手が自分から武器を手放すのを待つのではなく、こちらから手を離させます。これが奪う技(ディスアーム)そのものです。相手の親指の側、つまり握りがいちばん弱いところに向かって回す、自分の腰を相手にぶつけて手首の角度を崩す、打撃で相手の気をそらす、といった動きです。これは、押さえることと位置を取ることができた後にだけ行います。
C:距離を取る(Create Distance)
武器が相手の手から離れたら、その瞬間に、その武器に合った距離を取ります。どんな武器でも同じ距離でよいわけではありません。
銃の場合は、相手がすぐに手を伸ばして届かず、反応も間に合わないところまで離れる必要があります。先ほどの約6メートルに近い余裕を取り戻すということです。ナイフの場合は、考え方が変わります。刃物は銃が届かない距離からでも、詰め寄って切りつけることができます。ですから、より遠くへ、より速く動き、状況を判断する前から動き続けなければなりません。
SPECという手順に価値があるのは、それがここまでの話と別のものではなく、ここまでの話そのものを、緊張した場面でも実行できる順番に並べ直したものだからです。「押さえる」と「位置を取る」は、武器を離さない技術と立つ位置の知識から来ています。「離させる」は、武器の使い方と持ち方を知ったうえでの奪う技(ディスアーム)そのものです。そして「距離を取る」は、奪った武器が銃でも刃物でも、自分の身を守るのは距離だという、護身のいちばん大事な原則へと立ち返らせてくれます。
SPECという一つの言葉にまとめて教えることで、警察などの関係者にも一般の人にも、この記事でお話ししたすべてのことを、一つの判断の流れにまとめる、使えるチェックリストを手渡すことができるのです。
武器を奪う技は、それだけを切り離して教えたり、使ったりできるものではありません。
武器がどう使われるのか、どう持ち続けられるのかを本当に理解して、初めて、どうすれば奪えるのかが分かります。
この三つの柱を支えるのが、奪いにいくことが状況として正しいかどうかを決める「立つ位置」、一つひとつの判断を慎重にしなければならない理由を教えてくれる「出血の怖さの正しい知識」、そして何よりも、そもそも武器を奪うことが正しい選択なのかを決める「距離」です。
これらをばらばらの話題としてではなく、一つのものとして学ぶこと。それが、本当に追い詰められた場面で、安全に、確実に身を守る力になるのです。
この記事でお話しした考え方を、アヴィ・ナルディア氏本人から、実際に体を動かしながら学べる2日間です。ナイフの日と銃の日は、それぞれ1つのセッションからご参加いただけます。