2026.09.04
警棒は、警備員やボディガードが実際に携帯している護身用具です。ただし「持っていれば強い」道具ではなく、構え方も、狙う場所も、叩いてはいけない場所も決まっています。
この記事では、ボディガード歴28年の加藤一統先生がマガジムに来て解説してくれた内容から、警棒の種類と選び方、そして刃物を持った相手に対して警棒がどう働くのかを、法律上の注意とあわせて整理します。
目次
ゲストの加藤一統先生は、ボディガード歴28年、一般社団法人 暴犯被害相談センターの代表理事です。実際に業務で警棒を携帯してきた立場から、道具としての警棒と、その使いどころを説明しています。
最も多いタイプで、加藤先生が「一番信頼性も高い」と評価しているのがこの方式です。三段式の警棒を勢いよく振り出し、その遠心力で継ぎ目をロックして固定します。

最近増えているのがこちらです。強く振り出さなくても、ボタンを押すだけで伸びます。

振り出し式は、伸ばすのは簡単でも縮めるのに場所を選びます。コンクリートのような硬い面に打ちつけないと戻りません。動画の中でも、ゴム製のハンマーを用意して戻していました。持ち歩く道具としては、この一手間が効いてきます。ボタン式はこの点が楽で、加藤先生も「そういう意味ではこれはすごくいい」と話しています。

スチール製は重く、当たれば大きなダメージになります。ただし重い分、振る側の前腕や手首にかかる負担も増え、扱いは難しくなります。加藤先生は、運動習慣のない人がいきなり重い警棒を振ると「すっぽ抜け」が起きると指摘しています。アルミ製の軽いものは、その点で扱いやすくなります。
動画の中で「普通の人には一番使いやすいのかな」と挙げられていたのが、50センチほどの長さです。

紹介されたのは、ドイツのBONOWI(ボノウィ)で25,000円ほど、アメリカのASPで4万円から5万円ほど。「これでも安い方」という価格帯です。
そのうえで加藤先生が勧めているのは、店に行って実際に持ち、振ってみて、自分に合う重さを確かめることでした。カタログの数字だけでは、振れるかどうかは分かりません。
実際に店で警棒を手に取り、重さや長さの違いを確かめる様子は、マガジムが護身用品専門店「ボディーガード アキバ店」を訪ねた動画(店長・桑原さんの解説)の7分26秒以降で見られます。催涙スプレーと特殊警棒について護身用品専門店で教わった(7:26から)

以下は関係する法令を当ジムが原文で確認して整理した一般的な説明で、個別の事案での適法性を保証するものではありません。
通常の棒状の警棒は、銃刀法が所持を禁じる「銃砲」や「刀剣類」(刃渡り15cm以上の刀など、刃物の類)には当たらず、自宅で保管すること自体を全国一律に禁じる規定は見当たりません。
ただし軽犯罪法1条2号は、「正当な理由がなくて刃物、鉄棒その他人の生命を害し、又は人の身体に重大な害を加えるのに使用されるような器具を隠して携帯していた者」を拘留又は科料に処すると定めています。
この号の要件は「正当な理由がないこと」と「隠して携帯すること」の2つですが、隠さずに持ち歩けば問題ないという意味ではありません。持ち歩く目的・場所・見せ方・使い方によっては、刑法や都道府県の条例、施設のルールに触れます。動画の中でも加藤先生が「これを持ったら、その辺を歩いていいですよって話ではない」と明確に断っています。
自宅での保管と外への携帯は分けて考えてください。また、自宅に置いていても人に対して使うことが当然に許されるわけではなく、正当防衛にあたるかどうかは刑法36条に沿って個別に判断されます。
警備業法17条1項は、警備業者と警備員が警備業務で携帯する護身用具について、都道府県公安委員会が規則で携帯を禁止・制限できると定めています。携帯させる護身用具の種類と規格は、警備員個人ではなく警備業者が、業務開始の前日までに警察署長を経由して公安委員会へ届け出ます(警備業法17条2項・警備業法施行規則28条)。
規則の中身は警察庁が全国の基準を示していて(令和6年3月29日付の通達)、東京都・大阪府の規則も同じです。警戒棒は「円棒で、長さ30cm超90cm以下、重さは長さに応じた上限(40cm超50cm以下なら220g以下、80cm超90cm以下なら460g以下)」と決まっています。動画で加藤先生が「われわれは持てる警棒が決められちゃってる」「規格内220に収まっている警棒」と言っているのは、この上限のことです。改正の時期や、業務の種類ごとの携帯制限は都道府県で差が出ることがあるので、実際に適用される規則は各都道府県公安委員会規則で確認してください。
この記事は法律の助言ではありません。持ち歩きや使用が適法かどうかの個別の判断は弁護士に、警備業の届出や規則の運用は管轄の警察署の担当窓口にご確認ください。
「どういう構え方をするんですか」という質問に対する加藤先生の答えは、「構えっていう決まったものはない」でした。オーソドックスに構えても、剣道のように右手前で構えても、どちらが正解ということはありません。警棒は移動しながら使うものだからです。

形が自由な一方で、間違いなく言えることが一つあると加藤先生は言います。掴まれたら終わりです。だから、不用意に相手に向けて突き出す・かざすのは避けるべきだ、と。

素手で刃物と向き合うと、こちらにできることはほとんどありません。そこに警棒が一本あるだけで状況が変わる、というのが加藤先生の説明です。叩くためではなく、間に置いて相手が入ってきにくくするためです。動画では「これ何やってるかって、盾にしてる」と説明されています。上から来ても、警棒が間にあるだけで入りにくくなり、致命傷を受けにくくなります。

素手なら相手の距離まで入られてしまう場面でも、警棒があればこちらの距離で対応できます。加藤先生は、この距離を取れることこそ警棒のメリットだと繰り返しています。逆に言えば、距離を取っただけで何もせずに待ってしまうと、その利点は消えます。
狙う場所として挙げられていたのは、手の甲から前腕、橈骨(とうこつ)・尺骨(しゃっこつ)のあたりです。刃物を持つ手そのものを機能させなくする狙いです。ただし加藤先生は「折れたからといって刃物を落とすとは限らない」とも付け加えています。

動画の中で最もはっきり示されていた原則がこれです。「基本的に警棒は頭を叩かないでください、というのが大前提」。昏倒させることを目的に振るう道具ではありません。

加藤先生がもう一つ触れているのが、人を打つことへのためらいです。武器を持っていても、実際に人を叩くのは怖い。それ自体は正常な感覚で、あってしかるべきものだが、いざという時には邪魔にもなる、と。
これは道具の話ではなく、練習でしか埋まらない部分です。素手で距離を取る、逃げる、声を出す。この順番が先にあって、道具はその後です。
警棒は「持てば勝てる」道具ではありません。振り出し式かボタン式かで戻し方が変わり、重ければ扱いにくくなり、持ち歩けば法律上の制約がかかります。そして実戦では、叩く道具である前に距離を作る盾として働きます。
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