banner

How To 護身術

- How To Goshinjutsu -

護身術とは女性のための護身術

女性とクラヴマガ
~その特性を護身に活かす心得~

2024.04.07

ジュリアン リトルトン
南アフリカ生まれ。19歳よりイスラエル国防軍(Israeli Defense Forces)に従事。国境警備、空港警備、人質救護など、数々の危険度の高いミッションに携わってきたセキュリティーのスペシャリストで、クラヴマガをもっともよく知り、経験した日本在住者と言って過言ではない。日本のみならず海外の政府VIP警護チームへの訓練も行うなど、指導経験も大変豊富。
 
2018年よりマガジムでクラス指導を開始。日本の社会や国民性をよく知る者として、クラヴマガを日本でどう応用すればより実用的かを常に考え、クラスのカリキュラム開発や、インストラクターの教育・訓練を担当している。

ジュリアンが解説 クラヴマガの世界シリーズ 第3弾は「女性とクラヴマガ~その特性を護身に活かす心得~」がテーマです。護身術の習得において女性はどんな特徴があるのか、男性と比較するとどこが違うか、などを掘り下げてお伝えします。
 

性別の傾向の違いを知ることは男性が自己認識されるうえでも大変有効です。男女ともに是非最後までお読みください。

女性にも身近になった護身術

まず格闘技や護身術は、もともと男性中心の分野です。女性が格闘技なんて、そんな乱暴なことはやるものではないといった古風な見方や偏見もあったに違いありません。昔の常識なら、女性がやるのはクラシックバレーやヨガといった考えでしょう。



格闘技や護身術のジムは今までこんな偏見と戦ってきましたが、SNSなどを通じ格闘技をやる女性は強くてカッコイイものとして受け入れられるようになり、女性にとっても徐々に一般的になりました。日本の女性にとって敷居が低くなったのは実に喜ばしいことです。

どこまでリアルであるべきか

女性にとって格闘技や護身術のジムは、通うのに抵抗のない快適な空間であることが大切です。特に護身術を教えるインストラクターは、より繊細な注意が必要です。なぜなら護身を習い始める女性の一部は、過去に何らかの嫌な経験やトラウマを持っている可能性があるからです。
 

護身術のトレーニングはリアルさを追求すべきですが、時にはそれが諸刃の剣になることもあります。リアルであればあるほど、トラウマが蘇る可能性も高くなるからです。



インストラクターは常に、どこまでリアルなトレーニングにするか、どこが限界かを見極める挑戦です。人によってその境界は異なりますので、うまく適応しないと逆効果になりかねません。
 

自信をつけることの大切さ

一般的にジム業のフォーカスは体を鍛えることですが、女性の護身術に限って言えばそれに加えて、メンタルを鍛えることが大切です。女性は男性に比べ「私には無理だ、できない」と思い込み、自ら限界を感じる傾向にあるからです。
 

しかしそんな女性でも、トレーニングを始め継続するにつれて、自分が思っていたより弱くないことに気づきます。自分はそう簡単には壊れない、案外闘争心がある、もっと耐久力があると気づき、やがて「自分はできる」という自信が生まれます。



その自信が大切なのです。人は襲われると思考が止まり、身体はフリーズする傾向にあります。すると、逃れるための決断や行動が下せません。動けず無抵抗な人は弱く見えるため、犯罪者は図に乗り、暴力が増す可能性すらあります。従ってフリーズ時間を極力短くし、すぐに反応して行動を取ることが大切です。
 

そのためには自信が必要です。「自分はできる」と言う自信が芽生えていれば、黙ってフリーズする必要ありません。不利な状況を自ら作らないよう、決断して動くのです。クラヴマガのトレーニングを通じて、それに必要な自信を芽生えさせることが何よりも重要です。
 

性別で異なるFight or Flight

次にお話しするのはFight or Flight(闘争か、逃走か)です。危機に瀕した時に相手と戦うのか、それとも逃げるのか、という選択についてです。
 

よく誤解されがちですが、Flight(=逃走すること)は悪いことではありません。私は護身術で必要なことの95%は、逃走すること、つまり危険に遭遇する前に離れることだと考えています。Fight(=闘争)は現実的には、護身術に必要な要素の5%に過ぎません。
 

そこで男性陣に、あなたは危険に瀕したら闘争しますか?逃走しますか?と尋ねてみましょう。「僕は勇気を出して戦います!」と答える方は、案外多いかもしれません。生まれ持った闘争心や正義感が原因でしょうか、男性は他に取りうる選択肢があったとしても、戦いに入り込む傾向にあります。



余談ですが、男性は戦う技術を習うときは大変集中します。こうやって相手を倒す、こうやって攻撃すると言うことには高い関心を示し、集中力を発揮します。また男性は煽るとどんどん前にも出てくれます。
 

一方で相手から逃げることや、その場から離れる方法については、若干事情が異なります。男性には、逃げ出すことや避難すると言う発想になじみが薄いようです。
 

女性は、相手と関わるよりもその場から離れる発想を持っており、選択肢が多様です。どうしても避けられない場合のみ闘争を選び、基本的には逃走を選びます。
 

護身術の観点では、その方が遥かにベターです。戦うより逃げる。状況を悪化させずにその場から離れることを最優先にしてもらいたいです。自分の経験からは、この事実を理解してもらうには、男性よりも女性の方がはるかに簡単だと思います。女性は、戦い方より逃げ方を習う方がよりしっくりくるのかもしれません。
 

従って、護身術において大切な95%についての才能は、女性が優れているといえます。
 

FightとFlightの切替え

現実の危険では、逃走か闘争かを一瞬で判断し、切り替えなければいけません。
常に逃げる選択を優先するべきですが、場合によっては相手とのちょっとした衝突が急に暴力に転じることがあり、それは一瞬です。それに対して自分も瞬時に切り替え、反応しなければいけません。つまり、逃げられないと判断したら瞬時に戦いにスイッチする。
 

一方で戦いに突入た場合でも、長く付き合う必要はありません。少しでも隙ができればすぐに逃げる。FightからFlightへの素早くダイナミックな切替が必要です。



一般的に女性はFight(=闘争)へのスイッチはうまくありませんが、Flight(逃走)のスイッチを入れることには優れています。男性はその逆だとお考え下さい。

危ない気配を感じる力

私が思うに女性の方が細部に対する注意力や発見力が優れていると思います。ちょっとしたことの違いに気づく能力です。
 

例えば「髪型変えたね」とか「今日の服装いいね」とか、いつもとの違いに敏感に気づいてくれるのは、男性と女性のどちらでしょうか。おそらく女性が多いですよね。これは脳の違いによるものなのかもしれません。
 

その能力は、人の雰囲気や感情を読んだり、場の空気を読んだりする力に繋がります。つまり何かをやらかしそうな人物の怪しさや不審に気づく能力(=潜在的な危険を未然に発見する能力)です。



一般的に男性は大きな視点は持っていますが、細かい視点に欠落する傾向にあります。この違いにより、女性が未然に危険を察知し、避ける能力につながっていると思います。

新たなことへの積極性

普段インストラクターの視点から感じることですが、女性は男性に比べて新しいことに積極的です。男性は好きなことや得意なことを繰り返しやりたがり、新しいことには慎重で、周りの人の評判を聞いてから取り組むといった感じです。
 

私の教えるクラスは、テクニック単体へのこだわりよりむしろ、危険回避能力や察知能力を育んだり、シナリオベースのトレーニングをするなど、新しく多様な状況に触れることを重視していますが、それにはどちらかというと女性の方が積極的です。テクニック重視のクラスは男性好みで、シナリオベースのクラスは女性は好みという傾向です。



男性は強さや技術を追及し、他人と競い合うことを好みますので、ストリートでも「戦い」という既成概念に縛られがちです。この場合はどうやって戦うか、どんな技があるか、といった思考です。女性はいかに危険から避けるかという思考が強く、戦う以外の多様な選択肢を取る能力は高いといえます。

抵抗なく素直に学ぶ姿勢

もう一つ、面白いことに女性は私が相手であってもスパーリングを果敢に挑んできますが、男性は積極的に私を相手として選びません。自尊心が強いためでしょうか、負けたくない、やられたくないと言う気持ちが強く、女性に比べると勝ち負けにこだわるようです



しかし女性は負けることに対してはさほど気にしません。自分が弱いと思われようが関係ありませんので、胸を借りる気持ちで私に向かってきます。余計な抵抗なく、新たなことを素直に学ぶ姿勢が備わっているように感じます。
 

男性は本能的に威勢や虚勢を張ったりしますからそうはいきません。私もその例に漏れませんが(笑)

力への依存

フィジカルに優れた男性は力に頼って相手に勝とうとするのに対し、女性はより技術に忠実です。自身の経験から言えることですが、私は体も大きくパワーもあるので、ついフィジカルに依存してしまいますが、本当はもっとテクニックを重視すべきだと思っています。パワーに依存すると、自分に満足なテクニックがなくてもその場をどうにかできてしまうからです。
 
女性はその逆です。肉体的なアドバンテージが少ないため、よりテクニックの習得に集中しないといけません。
 

この違いにより何が生じるか。最初は、力に頼ってどうにかなっていた男性に対し、基本の技術をしっかり身に付けた女性が後から追いついてくるのです。場合によっては追い抜きます。



ここで初めて男性は、もっと技術にフォーカスすべきだったと気づきます。最初はフィジカルでどうにかなってしまうので、大切さに気づくのに遠回りするのです。いずれ自分と同じ体格、もしくはそれ以上の人と接したときに、壁にぶち当たります。そこまでに1~2年はかかるかもません。
 

一方で、女性は最初から着実に正確に技術を身に付けようとします。男性相手に通用するまでは時間がかかるかもしれませんが、それが正しい習得プロセスです。地道ですが、長い目で見ればフィジカルに頼らず、技術を着実にものにする姿勢は重要です。
 

技術を身につけるためには性別にかかわらず時間がかかります。何度も何度も動作を繰り返すことで、マッスルメモリーに叩き込む。とても根気の要ることですし、上達を感じるまでには期間を要します。力が無い人であれば特に、最初は全然通用しないと感じがちですから根気強く続けることが大切です。

長い目での上達の近道

インストラクターの視点ですが、初心者層では、男性は比較的早期にハマりやすく、モチベーションも上がりやすいです。一方女性は、最初はうまくできた実感が湧きずらく、上達を感じるまでに時間がかかります。そんな彼女たちに長い視点でヤル気になってもらうことやその大切さを伝えるのがインストラクターの役割だと認識しています。



何事も1,000時間繰り返すと上達し、10,000時間繰り返すとその道のプロになると言われています。体が物事を記憶するには、そのぐらい反復練習が必要であり、時間がかかるものだということをご理解ください。
 

女性の優位性

結論ですが、護身において女性は男性に対して優位性を十分に持っています。
現実の社会において、争いは常に最小限であることがベストですが、男性は好戦的で他人と衝突しがちです。しかし多くの女性は抗戦より先に、避ける方法や逃げ道を探すでしょう。
 

つまり男性は、不要な戦いに自ら飛び込んでいく傾向が強く、女性は不要な争いは避け、そこから1歩引く傾向が強いのです。



先ほど起きうる危険のうちの95%は、未然に避けられることだとお伝えしました。身体的な接触をもち、何らかのテクニックを使う必要な場面は、危険の5%に過ぎないと。
 

誤解を恐れず言うと、男性はその95%を、自ら70%にしてしまう傾向があります。本来は衝突を避けられるのに、自ら相手と関わりを持ってしまいます。その差の25%は不要な争いを招いているということです。
 

数字に明確な根拠はなく、あくまでも傾向の話としてご理解頂きたいですが、この違いからも女性は危険回避能力が強く、護身術における優位性があると言って良いでしょう。

護身術で学ぶべきこと

逆にいうと女性は回避能力が備わっているので、護身術から学ぶべき事は5%のケース、つまり相手と接触せざるを得なかった場合にどう対処するか、ここに集中することが大事です。
 

しかし、男性は逆に、いかに争いを未然に回避するかと言うことにフォーカスすべきでしょう。意識や決断によっては、避けられる争いが70%だったところを95%にできるわけで、その方がより安全です。

 

女性の読者の方へ

今後はもっと多くの女性の方にクラヴマガを始めてもらいたいと思ってます。
インストラクターは、今回お伝えしてきた性別による傾向の違いをよく理解して指導する必要があると思います。
 
正しいプロセスで学び、きちんと自信を持ち体が危険に反応ができるようになれば、女性であってもいざと言う時に身を守る能力は確実に身につくと確信しています。



コミュニケーションが5%を更に低くする

最後にもう一つ、コミュニケーションの大切さについて加えます。
 
身体的な衝突が起きそうになった場合でも、言葉を使ったコミニケーション駆使することで、さらに5%の確率を低くできるということです。
 

声を上げて叫んだり、それ以上こっちに近寄らないでと伝えたりするなど、言葉で自分の意思を相手に明確に伝えることで、相手に意識の変化をもたらすのです。声を上げることで、周囲に対して注意喚起することもできます。
 

これも衝突を避けるための有効な防衛手段です。黙っていては相手は調子に乗ってより攻撃的になる可能性が高いです。やめてください、近づかないで、警察呼びますよ、とハッキリ伝えることが未然の解決につながるかもしれません。
 

理由もわからず怒っている人がいればまずその理由を聞き、場合によっては謝ることも解決になるかもしれません。言葉を使ったコミュニケーションスキルは、護身術のフィジカルなテクニックと同様に皆さんが取り組むべき大切なテーマです。
 

多くの人は危険に直面すると声が出ず、黙り込んでしまう傾向にありますが、効果的な言葉を使ったコミュニケーションによって5%の身体的な接触の確率を3%まで低くすることができることを、実戦的な護身の手段として最後にお伝えします。
 

マガジムで護身術を体験
自分の身や大切な人を守るため
マガジムでクラヴマガを身につけませんか?
クラス体験のご予約はこちら
この記事の監修者
ジュリアン リトルトン
南アフリカ生まれ。19歳よりイスラエル国防軍(Israeli Defense Forces)に従事。国境警備、空港警備、人質救護など、数々の危険度の高いミッションに携わってきたセキュリティーのスペシャリスト。日本在住者で彼以上にクラヴマガを体現している人物はいないといっていい人物。 2016年から2018年にかけては、他国の大統領警護チームに対する技術訓練責任者として従事。クラヴマガとその警護への応用はもちろん、セキュリティに関する広範な知識と技術を他国へも教授した。2018年よりマガジムでクラスを指導。実戦的過ぎるクラスは大好評で、マガジムインストラクター達へのクラヴマガの神髄を伝える役割も果たしている。
PAGE TOP